作業療法の定義が33年ぶりに変わった
つい先日、日本作業療法士協会が作業療法の定義をリニューアルしたようです。
1985年からずっと改正されていなかった定義、どう変わったかみてみます。
今までは、
作業療法とは,身体又は精神に障害のある者,またはそれが予測される者に対し,その主体的な生活の獲得を図るため,諸機能の回復,維持及び開発を促す作業活動を用いて,治療,指導及び援助を行うことをいう.
2018年5月25日、平成30年度定時社員総会で定まった33年ぶりの新しい定義は、
作業療法は、人々の健康と幸福を促進するために、医療、保健、福祉、教育、職業などの領域で行わ
れる、作業に焦点を当てた治療、指導、援助である。作業とは、対象となる人々にとって目的や価値を持つ生活行為を指す。
(註釈)
・作業療法は「人は作業を通して健康や幸福になる」という基本理念と学術的根拠に基づいて行われる。
・作業療法の対象となる人々とは、身体、精神、発達、高齢期の障害や、環境への不適応により、日々の
作業に困難が生じている、またはそれが予測される人や集団を指す。
・作業には、日常生活活動、家事、仕事、趣味、遊び、対人交流、休養など、人が営む生活行為と、そ
れを行うのに必要な心身の活動が含まれる。
・作業には、人々ができるようになりたいこと、できる必要があること、できることが期待されているこ
となど、個別的な目的や価値が含まれる。
・作業に焦点を当てた実践には、心身機能の回復、維持、あるいは低下を予防する手段としての作業の利
用と、その作業自体を練習し、できるようにしていくという目的としての作業の利用、およびこれらを達
成するための環境への働きかけが含まれる。
長い注釈が書かれているのである意味読みづらいところもありますが、作業療法でいうところの「作業」とはどういうことかを少し具体的に書いているところが大きな違いなのでしょうか。
いままでになかった「幸福」という文字が何度か出てくるところは大きな違いなのかなと思います。
しかし、一般の、作業療法をよく知らないひとがこの文章を読んで、作業療法のことをわかってくれるでしょうか?
アメリカ作業療法協会の作業療法の定義
作業療法の先進国、アメリカではどうでしょうか。
アメリカ作業療法協会(AOTA)ではこう書かれています。
WHAT IS OCCUPATIONAL THERAPY?
Your life is made up of occupations—meaningful everyday activities. These occupations can include many
roles, such as being a parent, a friend, a spouse, a tennis player, an artist, a cook, or a musician. We generally
don’t think about our daily occupations until we have trouble doing them. Everyone has occupations—
from the toddler whose occupations are play and learning to develop important skills, to the older adult
whose occupations are engaging with family and friends and managing his or her home. If you are recovering
from an accident or injury, your valued occupations may be disrupted. Occupational therapy
incorporates your valued occupations into the rehabilitation process.(AOTA カタログより)
生活は作業で成り立っているーーその作業はすべて意味のある作業である。
みんないろんな作業や職業にかかわっているけれど、トラブルにあって初めて、日々、自分の作業を空気のように、あたりまえのように行っていたことに気づく。
赤ちゃんは遊びながら生きていくすべを身につけていく。
おとなたちは家族や友人との時間を過ごし、自宅で暮らす。
もし事故やケガをしたらそんな毎日の大切な作業はできなくなってしまう。
そんなとき、あなたのかけがえのない作業をもう一度取り戻すために、作業療法はあなたに寄り添う。
あくまでもわたしの意訳ですが、そのようなかんじでしょうか。
日本作業療法士協会とアメリカ作業療法協会の定義の大きな違いは、アメリカでは具体例を盛り込んでいる、というところでしょうか。
抽象的な言葉を並べるより、イメージしやすいです。
アメリカ作業療法協会の定義は、
Occupational therapy incorporates your valued occupations into the rehabilitation process.
最後のこの一文に集約されていると思うのですが、実に的確です。
その前に引用されている具体例があるから引き立つのですが、「なるほど。作業療法ってそういうときに役立つのか。」と思わせる文章構成です。
あなたのかけがえのない作業をもう一度取り戻すために、作業療法はあなたに寄り添う。
のです。
この文だけでは「じゃあ、いったいどこでなにをどうするの?」と聞きたくなりませんか?
答えはアメリカ作業療法協会のカタログに載っています。
「この続きを知りたい!」と思わせる、上手い書き方ですよね。
what, why, who, where, when, how, つまり、5W1Hにのっとって 次々と読ませて理解させる、こういうところが憎いです。
将来、作業療法は、作業療法士は
わたし自身は作業療法士で、いろいろあってへこむことも多いですが、「やっていてよかった」と思うことも多いです。
作業をつかって作業を再獲得もしくは新しく獲得する手助けをするのですから、責任重大であるとともに、クライアントと一緒に成す楽しさがあります。
その過程にかかわれるのはすばらしいことだと思います。
わたしの作業療法士としての経験のひとつ
例えば、脳梗塞で片麻痺、失語症になった60代の男性が、以前仕事で使っていたパソコン操作をしたい、という目標をもっていました。
彼は右麻痺で歩行困難、右手での作業は難しかったのですが、高次脳機能障がいのひとつである失語が大きな壁でした。
かろうじてひらがなと英字が認識でき、カタカナと漢字が理解できない、言葉を思い出せない、うまく発音できない、NoなのにYesとうなづいてしまう、というパターンの失語でした。
彼は仕事でパソコンを使っていたけれど、まずパソコンの起動方法やキーの位置が理解できなくなっていました。
わたしはパソコンの入力を工夫し、彼とコミュニケーションをとりながら少しずつ入力しやすい方法を模索していくうちにどんどんパソコンの能力をあげていきました。
同期の言語聴覚士や職場の理学療法士とも相談しながら助けてもらい、時には介護職員にも手伝ってもらうなど、職員みんなの協力を得ながらリハビリをすすめました。
彼はその後、自分で選んだ曲を集めてCDに焼き、ラベルや曲集を作ったり、日記をつけられるようになるまでに快復しました。
完成したCDを一つコピーしてわたしにくださったときはうれしくて本当に涙が出そうでした。
作業療法で関わったクライアントたちのうちのひとつの例ですが、「リハビリでかかわることで作業の再獲得ができた」と言ってしまえばそれまでなのです。
その先もあるし、クライアントと一緒にがんばってきたその過程は語るに尽きないものがあります。
その想い、葛藤、でもうれしさや楽しさもあります。
これからは作業療法士がもっと必要になるはず
結局そのクライアントは再就職にまでは至りませんが、片麻痺でもリハビリで体力、筋力をつけて歩行や動作も安定し、毎日、自宅でできるようになった家事を行って家族を手伝っています。
この作業療法のやりがい、楽しさを知ればもうやめられないです。
リハビリ職のなかでも理解されにくく、経験しないとわかりにくい職業かもしれないとも思いますが、超高齢化社会をひかえ、きっと今後もっと必要とされるはずの作業療法です。
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